それは、何の変哲もない平日の朝に、突如として訪れました。水回りを配管専門チームに寝屋川市の配管をいつものようにトイレのレバーをひねると、指先に伝わるはずの確かな手応えがなく、「カチャ」という空虚な音だけが響いたのです。水は流れず、タンクの中からは、ただ虚しく水が溜まる「シューッ」という音だけが聞こえてくる。我が家のトイレが、その長い歴史の中で初めて、明確な「故障」を宣言した瞬間でした。 最初に頭をよぎったのは、「業者を呼ばなきゃ…でも、いくらかかるんだろう」という、現実的な不安でした。出張費に作業費、部品代。おそらく、安くても一万円以上は飛んでいくだろう。水道修理に漏水した排水口を交換した高砂では、私の頭に、ある悪魔の囁きが聞こえました。「待てよ、これくらいなら、自分で直せるんじゃないか?」。YouTubeを検索すれば、親切な解説動画が山ほど見つかる時代です。根拠のない自信に後押しされた私は、人生初の「トイレ修理DIY」に挑戦することを決意したのです。 まずは情報収集から。タンクの蓋を慎重に開けると、そこには想像以上に複雑な、まるで迷宮のような内部構造が広がっていました。浮き球、ボールタップ、フロートバルブ…。初めて聞く専門用語の数々に若干の不安を覚えつつも、動画で解説されている手順と我が家のタンクの構造を見比べ、原因がレバーとゴム栓(フロートバルブ)を繋いでいるチェーンの破損であることを突き止めました。原因さえ分かれば、あとは部品を交換するだけ。私は意気揚々と、近所のホームセンターへと向かいました。 しかし、ここで私は最初の壁にぶつかります。広大なホームセンターの通路にずらりと並んだ、無数のトイレ修理用パーツ。メーカーも型番も様々で、どれが我が家のトイレに適合するのか、皆見当もつかないのです。スマートフォンの写真と商品を何度も見比べ、店員さんにも助けを求め、30分以上もかけて、ようやく「これだろう」という交換用のチェーンとフロートバルブのセットを手に入れました。この時点で、私の自信は早くも揺らぎ始めていました。 家に帰り、いよいよ実践です。まずは止水栓を閉め、タンクの水を抜く。ここまでは順調でした。しかし、古い部品を取り外そうとタンクの中に手を入れた瞬間、長年の水垢でぬるりとした感触と、黒ずんだ水の冷たさに、思わず顔をしかめます。なんとか古い部品を取り外し、新しい部品を取り付けようとした、その時。問題が発生しました。新しいチェーンが、微妙に長すぎたのです。そのまま取り付けると、ゴム栓がしっかりと閉まらず、水が漏れてしまう。 「鎖を切ればいいのか?でも、どのくらい?切りすぎたら元に戻せない…」。私の頭はパニック寸前でした。動画ではあんなに簡単そうに見えたのに、現実はこうも違うのか。何度も鎖の長さを調整し、水を流しては確認するという地道な作業を繰り返すこと、さらに30分。ようやく、鎖が適切な長さに収まり、ゴム栓がピタリと閉まる位置を見つけ出した時、私の額には汗が滲んでいました。 そして、運命の瞬間。止水栓を開け、タンクに水が満ちるのを待ち、ゆっくりとレバーをひねる。すると、これまで聞いたこともないほどスムーズで力強い「ジャーッ!」という洗浄音が、静かなトイレに響き渡ったのです。水はきれいに流れ、そして、ピタリと止まる。当たり前の光景が、その時ばかりは、まるで奇跡のように輝いて見えました。 今回のトイレ修理DIYは、結果的に成功に終わりました。数千円の部品代だけで済み、業者に依頼するよりも大幅に費用を節約できたのは事実です。しかし、その過程で私が費やした時間と労力、そして精神的なストレスは、決して小さなものではありませんでした。この経験から私が学んだのは、DIYには明確な「境界線」があるということです。原因が明らかで、単純な部品交換で済むようなトラブルであれば、挑戦する価値はあるかもしれません。しかし、原因が特定できない、あるいは配管の接続といった専門的な技術が必要な場合は、迷わずプロに任せるべきだと。その見極めこそが、小さな節約を、取り返しのつかない大きな損失に変えないための、最も重要な鍵なのだと、私は痛感したのです。
甘く見ていたトイレ修理、DIYの天国と地獄